日本火山の会火山学最前線レポート 特別解説 No.1 新種の火山を発見 〜プチスポット火山〜


プチスポット火山とは??

解説執筆:平野直人
作成協力:赤司卓也・竹内晋吾

 プチスポットという名前は、火山が単成火山と考えられ、 山体の直径は数km、比高は数百mと、ごく小規模なことから由来しています。このような地形が、海底地形図上に小さい「点」としてランダムに分布している ことから「プチスポット」と名付けられました。

どのような部分が新型火山なのでしょうか?

それは火山が形成されるメカニズムに深く関係しています。

地球上に火山が出来るメカニズムとして今ま でに知られていたのは、以下の三つ:

1.プレートの沈み込み帯の海溝に沿って陸側に出来るタイ プ(島弧火 山、背弧海盆、陸弧火山)
例) 富士山、三宅島、桜島、阿蘇山、有珠山などの日本のほとんどの火山、ピナツボ火山、セントへレンズ火山、エトナ火山など
2.プレートが出来るところ、ほとんどが深海底の火山(中 央海嶺・地溝 帯)
例) 東太平洋中央海膨、大西洋中央海嶺、東アフリカ地溝帯など
3.ホットスポット火山
例) ハワイ諸島、フレンチポリネシアの島々、カナリア諸島、イエローストーンなど

図1.プレート(オレンジ色と肌色)の断面 図と火山(赤色)の分布。地球表面は何枚かの移動するプレートによって覆われています。 プレートが沈み込む海溝手前の海側の星印が今回発見された火山の場所。

 このうち1と2は、数や体積で現在の地球上の火山の大部 分を占めていて、プレートの運動に大きく関わっています。これら以外の場所では、プレートの配置に関係なくマントル深部からのマントルプルーム(周囲より 高温の物質、または溶けやすい物質)が上昇している地点(3のホットスポット)でしか火山はできないだろうと考えられてきました。

 しかし今回発見した火山は、今まで知られていた上 記3つのメカニズムのどれにも当てはまらない新型種の火山(場所は図1の星印)と結論付けました。つまり、地球科学や地学の教科書の上記3つのリ ストに、


4.プチスポット火山
例) 北西太平洋(三陸沖・鹿島沖)、日本海溝


と加わる可能性があるわけです。

 プチスポット火山を造るマグマは、ホットスポットのようにマントル深部のマントルプルームから上昇してくるのではなく、プレート直下のマントルから上昇してくると考えられます。この部分はアセノスフェアと呼ば れ、三陸沖海底では、およそ海底から100kmの地下にあり、非常に溶けやすい場所とされ、おそらく一部溶けている状態にあると考えられます。このような プレート直下のアセノスフェアの状態は、今まで全く知られていなかったため、新たな証拠として論議を呼んでいます。でもこの部分は少しマニアックかもしれ ません。ここでは、新種とされる火山の形成メカニズムについて詳しくご紹介していきましょう。



図2.研究海域の海底地形図。日本海溝(水 深7000mより深い)手前で海底が水深5500m程度まで盛り上がっています。これはプレートが海溝でマントル へ沈み込む手前の屈曲が原因で生じています。火山が発見された海域は北緯37.5度:東経150度周辺と、北緯39.5度:東経144.3度(日本海溝)周辺。 図左下の海山群は常磐海山列と呼ばれ、1億年程前に形成された遙か昔の死火山です。

 プレートの沈み込みに伴ってプレートが曲げられる時、プ レート内部で破壊が生じ、割れ目が出来て、その割れ目がマグマの通り道(火道)となり、このプ レート直下に存在するマグマが海底に染み出すというメカニズムが考えられます。実際に今回発見された場所は、太平洋プレートが日本海溝へ沈み込むために、それまで水平移動していた太平洋プレートが、急に地球内部側に曲がり始める場所で、その影響で海溝手前では海底が大規模に盛り上がっています(図 2)。つまりマグマが上昇するための火道は、このプレートの屈曲が原因で出来た割れ目を使って出来たと考えられます。

 発見された場所は、北緯37度:東経150度周辺です。 ここは、およそ1億3500万年前の太古に中央海嶺で形成された、古くて冷たい太平洋プレートがしんしんと日本海溝へ沈み込みつつある場所です(図3)。 そのような場所で若い火山活動(5〜103万年前)が確認されたということだけでも驚きです。

 このような場所は、現在活動的な地殻変動(火山や断層な ど)は無いと思われていたので、今までほとんどの人が注目していませんでした。このような場所は、ただ深海泥がしんしんと降り積もり、リュウグウノツカイ や巨大イカといった深海生物が泳いでいだけだろう、と思われていましたから。

 沈み込みに伴ってプレートが曲げられている場所は世界に たくさんあります。プレートが曲げられることによってアセノスフェアからマグマが海底に染み出す訳ですから(図3)、世界の海洋底の似たような場所でこの ような火山が生じている可能性があります。今後、同様の火山が様々な海域で続々と発見されるかもしれません。


図3.プチスポット火山形成モデル (Hirano et al.,2006)。アセノスフェア(プレートの直下)からプレート上部を破壊しながらマグマは上昇するため、火道周囲の壁の石(捕獲岩)を大量に取り込 む。海底面(地表)では、マグマの染み出し口(火山の並び)はプレートの屈曲に伴う割れ目に沿い、アウターライズ屈曲のヒンジ線(屈曲場の走向線)に垂直 方向となる。

 深海底の調査は、地球の歴史を映し出すだけでなく、将来 の地球像をも映し出す鏡です。我々がいまだ手を付けていないこの聖域には、まだまだ解明されていない事実がたくさん眠っているのです。

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